気候変動覚え書き

アクセスカウンタ

zoom RSS んで結局、hiatus (温暖化の停滞) はあったの? なかったの?

<<   作成日時 : 2015/10/10 06:51   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

今年6月「hiatus (温暖化の停滞; 1998年以降、全球平均地上気温の上昇が止まった or 上昇速度が劇的に鈍ったとされる現象) は実は観測データの解析上のミスが原因であり、hiatusはそもそも存在しなかった」という論文がScience誌に載ったとのニュースが流れました。本当ならば頭痛が痛いとか口走りたくなります。その時は聞き流したのですが、縁があったので4か月遅れながら解説記事と合わせて読んでみました。
IPCC AR5は、海面高度における全球気温は過去15年間、それ以前の30-60年間に比べ1/2〜1/3の速度でしか上昇していない (hiatus) としている。米国NOAAの気温のデータセットを改定したところ、改定前のデータセットには存在したhiatusは消滅した。
データセット改定の目的は3つある。一つはSST (Sea Surface Temperature) に存在する既知のバイアスの解消である。SSTは主に船舶や漂流型・係留型のブイ数千により観測されているが、観測網の構成は絶えず変化している。そしてブイで観測したSSTは船舶で観測する場合に比べ同じ場所であっても僅かに低くなることが知られている。差は平均で0.12℃と見積もられており、またブイの方が機器ごとの補正等がしやすく正確な値となる。この20年間ブイによるデータが最大で15%増えており、これがSSTの観測値を引き下げていた。様々な補正方法が研究され提案されているが、我々は今回Extended Reconstructed Sea Surface Temperature (ERSST)データセットver.4で使われている方法に従った。これは英国気象庁のデータセットに対して既に行われている改定と整合している。
2番目は船舶の観測データの補正である。昔は海水温をバケツでサンプリングして計測していた。第二次大戦頃を境にエンジンへの取水口に設置した温度計で計測する方法が主流となり、ERSST ver.3bではバケツはもはや使われていないと仮定していた。だが一部の船舶は今もバケツで計測していることが判明したため補正した。これはERSST ver.3bからERSST ver.4への変更で起きる2000-2014年の0.064℃の変化のうち約半分、0.030℃を占める。
3番目はInternational Surface Temperature Initiative (ISTI) データバンクを利用した新規の陸上観測点の追加である。利用可能な観測点の数はほぼ倍となり、特に北極圏、全球平均よりも急速に温暖化している地域での空白域が狭まった。
これらの補正を行った改定データセットでの2000-2014年の海面高度の気温上昇率は0.116±0.067℃/10yearとなった。1950-99年は0.113℃/10yなので事実上おなじである。改定後でも上昇率はIPCC AR5で使われた多くのモデルより小さい。だが2014年末に向けての上昇トレンドは明らかであり、それは起点を大エルニーニョが起きた1998年とした場合も0.106±0.058℃/10yで変わらない。IPCC AR5でのhiatusの議論は1998-2012で行われているが、その期間だと改定前が0.039℃/10y, 改定後が0.086℃/10yとほぼ倍になった。これはSSTの上昇率が0.014℃/10yから0.075℃/10yとなったことが効いている。対応する陸上気温の上昇率は0.117℃/10yから0.112℃/10yとほとんど変わっていない。
1998-2012なら0.086℃/10y, 1998-2014なら0.106℃/10y, 2000-2014なら0.116℃/10yなので、起点や終点をわずかにずらすことは気温上昇率に無視できない影響を及ぼすと言える。だが改定の影響 (1998-2012が0.039->0.086) に比べれば小さい。
以上より、hiatusは存在しない。IPCC AR5の記述はもはや妥当ではない。
Science掲載論文。
Natureの解説記事は、上記を手際よく述べた上で、これで万事解決ではない。Hiatusを巡る検討を通じて火山や太陽や黒色炭素など様々な気温低下要因が明らかとなったが、これらはまだIPCCの予測モデルに組み込まれていない。とはいえ、これと放射強制力の誤差やエルニーニョの効果等々を考え合わせると、説明がつかない部分はほとんど残らないようだ、とのNASA GISS所長の言葉を引用して結んでいます。御意、、、ではありますが、これまで提案されてきた気温低下要因を全て足し合わせたら多分、hiatusを起こすどころか気温は大きく低下します。そこにこの「問題はそもそも存在しなかった」論文です。次期予測モデルに組み入れる過程で色々起きそう。
あと「上昇速度は鈍っていない」という結論を導き出したのが1951-1999と2000-2014の比較なのは気にいりません。1950年代、60年代は余り気温が上昇しなかった(大気汚染の影響ではと言われています)ので、その期間を入れると気温の上昇率は下がります。比較相手は2000-2014, 普通の年で始まり大エルニーニョ開始の年で終わる期間です。エルニーニョの時は気温が上がるので、そのように区間を選ぶと上昇率は高めに出ます。低めに出る値と高めに出る値とを比較し「0.113℃/10yと0.116℃/10yでほぼ同一でありhiatusは存在しません」まずくないか、それ。ともに大エルニーニョの年である1998-2014の0.106℃/10yでも十分に大きい、hiatusと呼ぶには値しない、は同感ですが。

*****
Hiatus。この数年、気候変動の関係者を大いに悩ませてきた現象です。masudako先生の解説はこちら
Hiatusが始まった当初、研究者たちは「よくあること」(実際自然変動は大きいので、ちょっとの停滞にいちいち反応していたら身が持ちません)で片づけていましたが、10年を超えて続いたため近年は「本当に鈍ったようだ、とはいえ放射対流平衡理論の根幹はシンプルでありそれを疑う=現代物理学の基本を疑うこととほぼ同値。無理ゲー。搦め手も長年の研究でほぼ完全に潰されている。うーん困った、絶対ほかに理由がある筈だ、それは何だ」と言いあーでもないこーでもないと頭を掻きむしり原因を論ずる論文を大量生産していました(ど素人である当ブログ主にはそう見えました)。当ブログ主もその尻馬に乗り、記事を何本か書きました(これとかこれとか)。
Hiatusを論じるとき、特に温暖化は嘘とのプロパガンダの手段としてhiatusを論じるときは1998年を起点にするのがお約束です。でも1998年は観測史上最強とも言われる大エルニーニョが起きた年なので、平均気温が大幅に上振れした異常値となるのは常識(?)です。そんな年を起点にしてはいけません、、、なんて説明が普通の人に通じる筈もない。大エルニーニョ、また起きないかなあ、そうすれば記録更新するはず、それが単純明快なんだが、と思っていたら遂に起きました。2014年に発生し、予測では2016年春まで続くらしい。そうなった途端、疑問の余地なく1998年の記録はぶち抜かれました。これは温暖化は続いていたという強力で分かりやすい証拠です。
はっはっは。物理法則ナメるな。
、、、としらを切りたいところですが、hiatusを論じた文献は現実に山ほどあるし、その結果としてIPCC AR5は (つまり気象学関係者の総意として) hiatusはあるという前提で書かれているし、私もその尻馬にのって記事を数本書いたし、自分に不利なことも含め分かっている限りのことを言う「全面開示」は科学の大原則だし。

IPCC AR5 WG1 Technical Summaryは、Box TS.3の冒頭でこう書きます(気象庁訳)。
Box TS.3 | 気候モデルと過去15年間の世界平均地上気温上昇の停滞
過去15年間に観測されている世界平均地上気温は、過去30〜60年よりはるかに小さい線形の上昇傾向を示している(Box TS.3 図1a、c)。観測データセットにもよるが、1998〜2012年の世界平均地上気温の変化傾向は1951〜2012年の変化傾向の約3分の1から2分の1と見積もられている。例えばHadCRUT4では1951〜2012年の変化傾向が10年当たり0.11℃であるのに対し、1998〜2012年の変化傾向は10年当たり0.04℃となっている。観測されている世界平均地上気温の変化傾向の低下が最も顕著なのは、北半球の冬季である。このような世界平均地上気温の変化傾向の「停滞」にもかかわらず、2000年代の10年間は、世界平均地上気温の測器記録の中で最も気温が高くなっている。しかしながら、過去15年間の世界平均地上気温の変化傾向に停滞が生じていることから、何が停滞の原因となっているのか、また気候モデルはそれを再現できるのかどうか、という2つの関連する問いが生じる。{2.4.3、9.4.1; Box 9.2; 表2.7}
15年の長さの停滞期間は、観測結果、CMIP5による過去の世界平均地上気温の時系列の両方で特別なことではない。しかし、CMIP5の再現結果(RCP4.5のシミュレーションによって2006〜2012年の期間を延長)の全ての解析によると、114の再現結果のうち111において、1998〜2012年の世界平均地上気温の変化傾向がHadCRUT4の変化傾向の全アンサンブルよりも大きいことが明らかになっている(Box TS.3 図1a; CMIP5アンサンブル平均の変化傾向は10年当たり0.21℃)。再現実験と観測された変化傾向のこの差は、(a)気候の内部変動、(b)放射強制力の欠落又は不正確さ、(c)モデル応答の誤差のいくつかが組み合わさって生じた可能性がある。こうした互いに排反はしない潜在的な差の原因について、観測された世界平均地上気温の変化傾向停滞の原因とともに、以下に評価を示す。{2.4.3、9.3.2、9.4.1; Box 9.2}
実は(a)-(c)のどれでもなく、観測データを整理するときに処理をミスしていただけだった、あれだけの騒動が実はすべて空騒ぎだったですとぉ?英国気象庁のデータセットHadCrust4は北極の補正が駄目駄目だったから見かけ上hiatusが表れていた、NOAAはブイのデータ処理等々をミスってたからhiatusが表れていた?あのねぇ。
でも、そうした事は時として本当に起きるんですよね、、、泣いてもいいですか。

こうした話がやっかいなのは、このScience論文の結果、測定誤差の範囲内で正しい観測値が得られるようになったのか、他にも見逃されている話があり真の値は改定後とも違うのか、本当のことは誰にも分からないことです。方法論の正しさはチェックできます。統計処理の正しさとか、欠損値から真の値を推定する方法とか。でも、それだけでは結果が正しいことは保証されないんですよね。私も経験ありますが、誰も見たことがないデータが取れました、これですと言われて数字の山を渡される。それなりに正しいデータが取れているように見えるが、従来理論と明らかに反する結果も含まれている。誤差は可能な限り排除したつもりだが十分かはよく分からない。さあ、この数字の山は信じて良いのか、従来理論は間違ってましたと断言しちゃって良いのか?
そういう時には結局、従来手法での結果や理論推定と突き合わせて違いの原因を一つ一つ評価した上で「調べた限りでは食い違いは全て説明がつく。多分それなりに正しい」までしか出来ません。今回の場合、世界的によく使われるデータセットは3+1個。英国気象庁、米国NOAA、米国NASA GISSは鉄板で、我らが気象庁が4番目として時々使われます。鉄板3個のうち2つが「ごめんなさい間違いでしたえへへ」となった訳ですが、他の2つはどうなっているんだろう。特に我らが気象庁。グラフの1998-現在をざっと目視した限りでは青の5年移動平均と赤の長期平均はほぼ平行に見えます。Hiatusはないと言っている?
本記事のタイトルに「結局あったの?なかったの?」と書きましたが、このhiatus騒動も明確な決着は不可能なのでしょう。今から100年後、十分な観測データと理論解析が溜まった時「もう断言して良かろう。我々の知識は概要の予測に十分な精度に達した」と研究者たちが確信することになるのだと思います。本当に我々が自信を持てるようになるまで100年、どんなに楽観的に見ても50年はかかるんじゃないかな。とすると、私は死んでますね、、、ああ10万年、せめて1万年生きてこの話の決着が見たい。

Thomas R. Karl, Anthony Arguez, Boyin Huang, Jay H. Lawrimore, James R. McMahon, Matthew J. Menne, Thomas C. Peterson, Russell S. Vose, Huai-Min Zhang, 'Possible artifacts of data biases in the recent global surface warming hiatus,' Science 26 June 2015: Vol. 348 no. 6242 pp. 1469-1472, DOI: 10.1126/science.aaa5632

Climate-change 'hiatus' disappears with new data, Jeff Tollefson, 04 June 2015, Nature doi:10.1038/nature.2015.17700

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
んで結局、hiatus (温暖化の停滞) はあったの? なかったの? 気候変動覚え書き/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる