気候変動覚え書き

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zoom RSS 気候の突然の変化(abruput climate change)の再現

<<   作成日時 : 2012/06/08 01:41   >>

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記事をアップせずにいる期間中に読んだ論文なので、少し古い(2011年)情報です。ここへ来る飛行機の中で書いたままPCの中で腐ってました。
ある閾値を超えると気候が劇的に変化する、そうした値が気候システムには存在するのかもしれない ---この考えは人々の想像力を大いに刺激し、tipping pointという名の下、メディアや学術誌で盛んに議論されてきた。これは気候変動への対策を考える上でも重要である。
だが、そうした閾値をどう定義するのか、そもそも本当に存在するのか、我々は何らかの閾値に近づきつつあるのかは決して明確ではない。非線形システムの特性を利用して閾値に近づいたことを検出する方法(註: 閾値に近づくと値が暴れるから分かる、等々の話ですね)も提案されているが、十分な時間的余裕をもって検出できるとは思えない。結局、頼りは気候モデルである。
IPCC等で使われている現在の気候モデルは、閾値を超えた時に起きるabrupt climate changeを再現できていない。私はそう考える。4つの例 (PETM, サハラの砂漠化、Heinrichイベント、Dansgaard-Oeschgerイベント) から検討しよう。

1. Palaeocene-Eocene Thermal Maximum (PETM)
5580万年前に起きたPETMでは炭素循環が乱れ、数千年間で赤道では5℃、高緯度地方では20℃気温が上昇した。海底のメタンハイドレートからメタンが大規模に放出され、大気中に炭素が注入されたという説が有力である。
PETM再現を目指す気候モデルは、PETMが起きる前の状態、暁新世後期から始新世前期が再現できていないという根本的問題を抱えている。この時期は赤道と極地方との温度差が非常に小さく、冬の大陸内部でも気温が氷点下となる事は希であった。現在の気候モデルはこの温暖な極地方を再現できていない。出発点が再現できない以上PETMも再現できない。しかも、このように温度差が非常に小さいのは、気候が極めて温暖なときの特徴らしい。そして21世紀末が「気候が極めて温暖なとき」かは不明である。

2. サハラの砂漠化
9000〜5500年前、現在のサハラ地方は今よりもずっと湿潤でステップの植物が生い茂っていた。緑のサハラである。その後かなり急速に(数十年から数百年で)今日の乾燥したサハラへ移行した。そしてまたもや、現在の気候モデルは移行前の湿潤な気候が再現できていない。特に初期および中期完新世におけるアフリカ北部への湿潤な地域の広がりが再現できない。従って乾燥サハラへと急速に移行する様子もシミュレーションできない。

3. 子午面循環(熱塩循環)の停止 (Heinrichイベント)
過去12万年間に大西洋の子午面循環は6回停止し、北半球の気温は急激に、地域によっては最大10℃低下したと考えられている。Heinrichイベントである。従来の説では、大量の淡水が北半球の氷床から北大西洋に流れ込み、子午面循環を停止したとされる。
概念を示すための比較的単純なモデル、中程度の複雑さをもつモデルではHeinrichイベントはかなりの程度再現でき、各種の平衡、ヒステリシス、abrupt changesによる複雑な挙動が示されている。後者のモデルでは氷河期の方がsensitivityが高い事も示されている。
だがIPCC報告書で使われるような複雑なモデルでは話が異なる。これらモデルだと、現在の気候条件下でHeinrichイベントを起こすには1Sv (1Sv=1e6m^3/s) 程度の淡水を北大西洋に加える必要がある。その一方、現実のHeinrichイベントで流入した淡水は0.1〜0.2Svに過ぎないとの推定で各種研究は一致している。その程度だと、sensitivityが高い氷河期においてさえ、子午線循環は30%弱まるだけで崩壊はしない。グリーンランドの気温低下は2〜3℃に過ぎないし、回復にかかる時間は古気候データは数十年でモデルは数世紀となる。そして各種平衡やヒステリシスによる複雑な挙動も現れない。

4. Dansgaard-Oeschgerイベント
氷河期から急速に暖かくなるというイベントが過去12万年間で25回記録されている。これらはDansgaard-Oeschgerサイクルの一部であり、グリーンランドの氷コアの分析から、2〜30年間で気温が最大8℃上昇したとされる。このときメタンの濃度も大きく変動しているので、この現象の影響範囲はグリーンランドに留まらなかった筈である。
この現象が起きる原因がよく分かっていないこともあり、本イベントのシミュレーションはHeinrichイベント以上に問題が多い。本イベントが最後に起きたのは14700年前だが、この時の急激な気温上昇を説明するには非現実的な量の淡水が数千年間にわたって海に流入する必要がある。
この後、行うべき事として古気候データと古気候システムの理解、abrupct climate changeの理解、モデルのより良いテスト方法の開発、等々が挙げられています。そして当面、我々は気をつけなければいけない。確かなことがあるとしたらそれは「現モデルは変化を過小予測している」である。古気候データは地球の気候システムはモデルが示すよりもずっと小さい変化に反応することを示している。現モデルは偽りの安心感を与えているのかもしれないのだ、だそうです。Nature Geoscience掲載論文。

原論文には上記4イベントと、我々が直面するかもしれない気候変動との関係が簡単に説明されていますが、特別な事は書いていなかったので割愛。

ううう、Abrupt climate changeがシミュレーションではうまく再現できていない、という話は昔読んで驚きましたが、ここまでボロボロとは。ということは、温暖化で熱塩循環が停止する・しないという論争がありますが、あれは非常に危なっかしい議論なのね。

私自身はGCMを作ったことはありませんが、私の & 隣の研究室で作っていましたからGCMはそれなりに信用しています、というか、考え方は納得しています。そして基本は毎日の天気予報に使われるモデルと共通です。なので、ここまで酷いというのはちょっとショック。前提となる古気候の再現データか、シミュレーションかどちらか or 双方に重大な見落としがあることは間違いないですが、4件も重大な不一致があるとなると、シミュレーションが完全無罪とは思えません。それは何なんでしょう。

江守先生の本には、現在のGCMは現在の気候を忠実に再現しすぎている、という話が出てきます。みな、どうしても目の前にあるデータに引きずられてしまうのですね。昔、太陽系外惑星が続々と発見されHot Jupiterという概念が出来たとき、太陽系形成論の人々はそれまでの惑星形成シミュレーションが行っていた、太陽系はこうなんだから○○は××に決まっている、という無意識の仮定を激論しながら外していったと風の便りに聞いています。それと同じことが必要なのかも。でも、合わせ込むべきデータがない or 不完全だとモデル作りは格段に難しくなるのも事実です。

ところで、PETMの頃は赤道と極との温度差が非常に小さく、大陸内部でも氷点下は希であった、という記述は非常に不思議。そんなことがあり得るんだろうか。あり得るとして、どうやったらそんな事が起きるんだろう?スーパー台風がわらわらと作られて絶えず熱輸送してたとか、、、でも大陸内部までそれで運ぶのは辛そうだし、、、

Journal reference: Paul Valdes, Built for stability, Nature Geoscience 4, 414-416 (2011) doi:10.1038/ngeo1200

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