気候変動覚え書き

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zoom RSS 既存の研究機関とは独立の地表気温の解析、1950年以降の温暖化を確認

<<   作成日時 : 2011/10/27 19:03   >>

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バークレーのRichard Muller氏がJudith Curry氏や高名な物理学者、気象学者、統計学者らとともにハドレーセンター、NOAA、NASA GISSといった既存の3大研究機関とは独立な地表気温の解析を進めている、という話がありました。そのBerkeley Earth Surface Temperature (BEST) プロジェクトの結果が出たようです。1950-2010について陸上の気温を解析したところ、既存の3大機関の結果と非常によく一致し、温暖化(0.911℃の上昇; NOAAとの違いは2%)が確認されたとのこと。

この話のキモは、Muller氏らはいわゆる「懐疑派」から資金提供を受け、懐疑派が言う懸念点を十分に考慮した解析方法を新たに構築した上で、一般公開されている気象データのみに基づいて(気象のデータセットは必ずしも全てが一般公開されているわけではありません。「公開しないこと」を前提に生データの提供を受ける場合がある、気象データは例えば戦場では重要な軍事機密であるためこうしたことが起きる、と聞きます)データセットを作り直し、それを公開したことです。つまり、結果に新しさがあるわけではなく (実際にはいくつか新知見が得られたようですが) 、解析した集団、スポンサー、方法論に新しさがあります。例えるならば、議論が紛糾したので第三者評価委員会を作り全データを解析し直した、その結果が既存の結果と非常によく一致した、という話です。

2011/10/20付で「Cooling the warming debate (温暖化論争を冷静に行うために)」と題して報道発表が行われました。また4本の論文をJGR等へ投稿したそうです。またプロジェクトのwebには簡単な解説(詳細編は準備中)と、今回作成したデータセットが公開されています。それによると

  • 「この解析が懐疑派の人々が抱くもっともな疑問に答え、温暖化論争を冷静なものとすることを望む」
    「私(R. Muller)はUniv. of East Angliaのグループがつじつまが合わないデータを隠したことを深く憂慮している。科学がもっとも良い結果を出すのは、問題と取り組みを率直に共有した時なのだ」「我々は最終結果を出すに先立ち、事前に結果を公開し広くコメントを求める。自由な情報流通は報われる。これが私が長年、科学を行ってきた方法であり、多くの人々が行ってきた方法である」「だがいくつかの雑誌、特にNatureとScienceがこの方法を禁止した。それは良い変化ではなかった」「Wikiでオープンに査読する方法は物理学で今も使われている」

  • 地表気温はNASA GISS、NOAA、UK Hadley Centre他により解析されてきた
    これら既存の3大機関は「1950年代の半ば以降、陸上気温は約1℃上昇した」「都市のヒートアイランド現象など、懐疑派が主張する問題点は結果に大きな影響を与えていない」と結論づけていた

  • だが懐疑派から既存3大機関の解析は信頼できないとの懸念が示されていた
    その場しのぎ(ad-hoc)の解析手法 (ヒートアイランド現象の影響を除くためデータの均質化; homogenisationを行ったりすること) が使われているため再現性がない、観測点の選択が恣意的である、周囲の環境が長い年月の間に激変したなど信頼性が低い観測点が含まれている、都市部のヒートアイランド現象の影響を受けている、等々の懸念が挙げられていた

  • そこで公開データを集め、新たな解析手法に基づいて陸上の地表気温のデータセットを作り直した

  • このためにデータのGeospacialな特性を考慮しつつ気温を大域的に平均するための新たな数学的枠組みを開発した。これにより一時的な観測点による短期の記録や、不連続な記録が利用できるようになった。この枠組みでは観測点の品質や一貫性に応じて自動的に重み付けを行う。疑わしいデータは単に捨てるのではなく、疑わしいとのフラグを立てる。これにより信頼性が低いデータを、結果の正確性を犠牲とすることなく利用できるようになった。疑わしいデータは基本的にはそれ以上解析しないが、将来の解析のため残している。また本枠組みでは観測点の空間的密度が様々に変化しても観測点の位置関係を考慮して解析することができる
    様々なソースからのデータはまず最初に重複をチェックし、1年以上の欠落を持たない断片へと分割し、明らかにおかしいデータをチェックし、おなじデータが繰り返し現れていないか(欠落したデータを補間するときによく使われる手法であるため)チェックし、その地方では現れるはずがないデータをチェックし、、、という一連の手順を経て統合データセットとした。詳細を記した文書は作成中である

  • これまで気候の研究で一般に使われていたGlobal Historical Climatology Network Monthly data set (GHCN-M) は7,280の観測点からなる。GHCN-Mの観測点には記録の長さ、欠落がないこと、ベースラインを定めるためほぼ完全な参照間隔、が求められる。だが新たな数学的枠組みを使うことにより今回、15のデータソース (一部は1800年まで遡る) から39,390の観測点を使うデータセットを作ることができた

  • 1950年代の半ば以降、陸上気温は約1℃上昇したことが判明した。上昇の様子 (気温のアノマリ) はNASA GISS、NOAA、UK Hadley Centreという3大研究機関のものと非常によく一致した
    「これほどまでに一致したのは我々としても意外であった。先行研究は十分に注意深く行われていたし、懐疑派が言う懸念点は結果に大きな影響を与えていない」

  • 都市のヒートアイランド現象は現実に起きているし、ローカルに見ると影響は大きい。だが陸上気温全体で平均した場合の影響は小さい。そうした都市部は1%未満だからである

  • 過去70年間を見た場合、1/3の観測点で気温は低下している。ここには米国と北欧の観測点の多くが含まれる。だが2/3の観測点で気温は上昇している。個々の観測点にはノイズが入ったり、信頼性に問題があったりする。温暖化を理解するには、常に全体を見る必要がある
    「膨大な数の観測点で気温は低下しています。これが人々が疑問を抱く理由の一つなのかもしれません。温暖化はあまりにもゆっくりなのです。地元の気象関係者が「気温は100年前に比べて低下してるよ」と言えば、温暖化を疑うのも無理はありません。10年単位、100年単位の変化を検出するのは容易ではないのです。数百、できれば数千の観測点を平均しなければなりません。近隣にある膨大な数の観測点がおなじパターンの変化を一致して示したとき、はじめて信頼できる結果となるのです」

  • Tony WattらUS Historical Climatology Network (UNHCN)が「酷い(poor)」と評価した観測点群と「OK」とした観測点群はおなじ温暖化傾向を示した。個々の観測点は気温が高すぎたり信頼性に欠けたりするかもしれないが、全体としての傾向は一致している。我々BESTは、不当なバイアスは存在しないとの結論に達した

  • データセット、解析プログラムのソースコードは公開である
    ぜひ精査されたい。温暖化の議論の背景となる科学を一般の人々にアクセス可能とすること、これが我々BESTプロジェクトの主たる目的の一つである。元データの大部分は既にインターネット上に公開されていた。だが様々な場所に様々なフォーマットで存在していたため、普通の人はその一部しかアクセスできなかった。我々はそれら16億の観測結果を統合し、普通の人がアクセスできるよう公開した。また公開とすることで科学者は、未来の批判や示唆に素早く応えられるようになるだろう
    (なおNOAAやNASA GISSもデータと解析プログラムを既に公開した、Hadleyも現在準備中とのこと。気象庁はどうなっているんだろう?)

  • 毎年の平均気温の変化には北大西洋 (Atlantic Multidecadal Oscillation, AMO)の影響が大きいらしいことが判明した。ENSOよりも平均気温との相関が大きい。そしてAMOは65〜70年程度の長期変動を持つとされる。従って、20世紀の大きな気温変動のトレンドとAMOの長期変動との関係を今後調べるべきだろう

  • この温暖化のうち、人間由来が占める割合は解析していない
    今回の結果は既存3大機関とよく一致した。従って、これまで行われてきた人為的温暖化の議論に対しては中立である

  • 次は海上の気温を解析したい

  • 解析チーム10名の多くは物理学者で、気候学者や統計学者も参加した。うちSaul Perlmutterは2011年のノーベル物理学賞を受けた (宇宙の膨張が加速していることを発見)

    うーん、感動。これが一流の科学者というものなんでしょう。Muller先生は時として厳しすぎると感じています。例えばU-East Angliaのチームがデータを隠したという話ですが、あのclimate gate事件では公的な検証チームが不正はなかったとしてします、少々言い過ぎではと思いますし、Muller先生の基準を適用すると、たいていの温暖化の議論が「証拠不十分」になってしまう気がします。でも、そのおっかない先生がこんな風に「では俺が手本を見せる」とやると、もう何も言えません。

    新たな結果が高い精度で既存の解析と一致したことですが、個人的には多分そうなると思っていました。NASA GISSのグループによる都市部のヒートアイランド現象の影響見積もりには説得力があると私は感じていましたし、巨大データセットの平均値は、一部のデータが少々おかしい位ではほとんど揺らがないからです。そして、地球温暖化とは単に地表の気温があがること「ではない」のです。物理学用語で言うと「系の総エネルギーが増加すること」であり、地表気温が上がる以外にも様々な現象が観測されなければいけません。たとえば雨の降り方が変わって降るときは土砂降り、降らないときは降らなくなり、夜の冷え込みが緩やかとなり昼と夜の気温の差が縮小し、下部成層圏の気温は低下(上昇ではありません)し、氷河や氷床は溶け、海面近くの海水温は上昇し、等々です。それら全てが実際に観測されています。さらには、人間の観測にはなにか間違いがあるかもしれません、全く異なる方法で確認できることが望ましいですが、その一つとして鳥の渡りや花の開花日が変化していることが確認されています。今から2年くらい前だったと思うのですが「観測されるべき10種類の現象が全て現実に観測された」「全てが揃ったのはこれが初めてである。遂に揃ってしまった」というニュースが流れていました(それを取り紛れて記録し損ねたのは痛恨の極みです)。であれば今や「地表気温なんて観測せずとも温暖化は断定できる」と私は思っています。地表気温が欠落していても、大多数の場所で春の訪れが早くなり鳥が早く渡り木々が早く芽吹く、を含む他の9種類が全て揃うならば、温暖化していると考えるのが自然でしょう。後は観測誤差をどこまで減らせるかの問題であり、それは研究者が人生を賭けるに値するテーマですが、温暖化が着実に進行中、という基本的枠組みを変更する話ではありません。

    でも本BEST projectの協力者の一人であり、懐疑派として知られる有名サイトWatts Up With That? の運営者、Tony Watts氏は納得していないようです。「JGRの査読が済んでいないのに、メディアに大々的に発表して既成事実作りをするのは汚い」「自分が信頼する論文では、1979年より以前のデータは信頼できないとしており、それを引用しながら作成された本BESTプロジェクト論文が1950-2010を解析期間としたのはやり過ぎである。1979-に修正すべき」と述べ、JGRの査読で正される or 書き直しを望む、とコメントしています。Watts氏のサイトを久々に眺めましたが、この突っ込みは苦しいと思いますね。未査読の結果を公表した理由をMuller先生は十分に説明していますし、それは正しいと私は思います。1950年まで拡張したことですが、ある論文が1979年以前は信頼できないとした、だからそれ以前に拡張してはならない、は無茶です。信頼性に問題があるなら、欠落があるならあるなりに、どこまでは確かでどこからが疑わしいか、そのギリギリを追求し明らかにするのがデータ解析屋の腕の見せ所なのですから。100%信頼できるデータなんて科学には存在しません。「データが信用できない、従って推定不能」は無能か怠慢です。異議を唱えるなら「拡張方法が○○の点、××の点において不適切である、従って1950年までの拡張は認められない」でないと学術論文では拒絶されます。少なくとも私が査読者ならそうします。

    個々の観測点の精度向上はもちろん重要です。でも今回開発されたようなデータ解析手法、信頼できないデータをシステマティックに見つけ出し排除する、信頼できないなりに扱う、も重要なんですよね。伝え聞くところによればある公開討論で、観測ステーションには管理がずさんなものがある、だから解析結果は信頼できないという論点が提示され、懐疑派の人が「あなたは現場に実際に足を運んで確認したことがあるのか」と詰め寄ったとのこと。元データ解析屋の卵としては「現場?現場って、研究室で動いているデータ解析プログラムのことですか?」と言い返したい。

    Muller先生、Curry先生、お疲れ様でした。まだプロジェクトは続くようですし、論文もJGRの査読が通っていない段階でお祝いを言うのは早すぎるとも思いますが、昔Muller先生の本を読んだとき私は「この先生の論文はきっと異様なまでに緻密なんだろう」と感じました、先生の論文が査読に通らないという光景が想像できません。

    科学という営みの有り様を理解せずに温暖化は問題だと騒ぐ人々、「正しく疑い続けること」の重要性を理解しない人々から両先生がそれはそれはボロクソに攻撃されていたのを私は見ていました。今回も「懐疑派だったMuller, Curryが大恥をかいた」「ついに真実の前に屈した」みたいな記事がネットにはあふれていますね。今後は懐疑派からボロクソに攻撃されるのでしょうが、全て覚悟の上とお見受けします。科学者のあるべき姿をお示し頂いたことを感謝します。

    Berkeley Earth Surface Temperature Project (BEST), http://berkeleyearth.org/
    BEST, COOLING THE WARMING DEBATE Berkeley Earth Releases Global Land Warming Analysis, 20 October, 2011, from http://berkeleyearth.org/Resources/Berkeley_Earth_Summary_20_Oct
    The heat is on, the Economist, Oct 22nd 2011, from http://www.economist.com/node/21533360
    Richard Black, Global warming 'confirmed' by independent study, Environment correspondent, BBC News, October 20, 2011, from http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-15373071

    2011.11.4追記: mushi氏のさまようブログでおなじ内容が取り上げられていました。
    2011.11.4修正: Tony Watts氏に言及したパラグラフの最後に、科学的に正しい異議の唱え方、を追記
    2011.11.4修正: リンクを2点追加
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    コメント(2件)

    内 容 ニックネーム/日時
    非常に詳細な紹介、ありがとうございました。私も記事にしていましたが、ここまで深く考察はしていませんでした。リンク貼らせてください。
    あるバイアスに従い行動する学者もいるのは事実で、そういう人に対する批判はあってしかるべきだと思いますが、一方で、このような「地道な」研究を続ける学者に対する評価があってしかるべきだと、本当に思います。
    mushi
    2011/10/29 00:49
    Mushi様、お返事遅れまして申し訳ございません。テーマかぶってしまいましたね。会議が終わった後の国際線のフライトの中だったので無駄に長くなってしまいました。
    リンク、むろん構いません。お役に立つならばご自由に。
    Polly
    2011/11/03 11:57

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