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zoom RSS 海面上昇予測の現状

<<   作成日時 : 2010/04/30 19:29   >>

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Nature Reports Climate Changeの4月号は海面上昇予測について特集しています。このところIPCC AR4, 2007年のIPCC予測は海面上昇に関する限り大幅な過小評価だったとの認識が広まっていますが、それは本当なのか、そんなことを言えるほど我々の理解は深まったのか?そして社会はそれへの備えが出来ているのか?を論じています。4月号の関連記事は4本。うち2本はオランダやマイアミの対応状況を述べたもので、海面上昇それ自体を扱った記事は2本。
まずJason A. Lowe, Jonathan M. Gregory両氏による「不確実性の海」という記事。例によって下記は原文への忠実さはそもそも目指していません。
21世紀に起きる海面上昇の議論では、南極とグリーンランドの氷床の与える効果が決定的となる。2007年IPCC AR4は"understanding of these effects is too limited ... to provide a best estimate or an upper bound for sea level rise" (最良推定値や上限を与えるには、我々はこれらの効果を余りにも理解していない) と述べ、それらの効果を除いた上で、GHG排出が最も多いA1FIシナリオでは海面は2090年代までに26〜59cm上昇するとした。
海面上昇がIPCC予測を超えると確実に言えるだけの証拠はまだない。観測(主に衛星)によれば両氷床は全体として質量を失いつつある。グリーンランドと西南極氷床から流れ出す氷河が加速しているためであり、両氷床は現在、20世紀の平均よりは海面上昇に寄与しているはずである。
新しい研究に依れば、海面が2100年までに2m上昇する可能性は真剣に考慮するに値する。2m以上となる可能性は、氷河が流れ出す速度を考えれば物理的にありそうにない。1m以下の方がありそうな話とされる。その一方、紅海の海底堆積物は、かつて氷床の広がりが現在と同程度だったとき、海面は1世紀あたり1.6m上昇したと示唆している。
2m以上上昇する可能性は排除できないが、それは、それは必然でも、可能性が高い訳でもない。そうなるためには恐らく、氷床が現在よりもずっと大きく寄与する必要がある。ある推定によれば、現在の寄与は一世紀で0.15mと見積もられている。また両氷床から流れ出る氷河は1990年代に加速したが近年減速しており、またグリーンランドのHelheim氷河の詳細なモデリングによれば、現在のグリーンランドの氷の流出速度は過渡的なものであり将来予測で外挿すべきではない。

この不確実な状況下で、よりよい予測を行うにはどうすればよいか。

氷床がより適切に扱われる気候モデルが登場するまでの間、一部の研究者たちは経験則に頼って海面上昇を見積もろうとしている。海面上昇に寄与する個々のプロセス(海水の熱膨張、山岳氷河、等々)をモデル化し合計する代わりに、これら半経験則法では過去の海面の高さと、過去の気温や放射強制力との量的な関係を統計的に導く。多くは20世紀の解析に基づくが、もっと長いものもある。ここでの仮定は「過去の関係式は将来も、ずっと広い温度範囲でも変わらない」である。もしこの仮定が正しいならば、気候モデルの結果から海面上昇が直接計算でき、そして、そうして行われた計算のいくつかは2100年までに1〜2mの上昇が起きるとしている。これはIPCC予測よりもずっと大きい。
そこで問題は、この半経験則は頼りになるのか、である。統計学的な正しさもさることながら、重要なのはこの半経験則は何を意味しているのか、である。1mを優に超える海面上昇とは物理学的に妥当なのだろうか。なぜIPCCのモデルよりも大きな値を出すのだろうか。こうした半経験則は近年の、氷床は余り影響していなかった時期の変化に基づいて作られていることを考えれば、氷床が大きく変化する時に妥当な結果を出すとは思えない。21世紀にもグリーンランドと南極を除く氷河や氷帽は大きく寄与すると思われるが、それらが40cmを超えるとは考えがたいし、実際にはそれよりずっと小さい可能性が高い。深海の熱膨張が2mもの海面上昇をもたらすとも思えない。つまり、半経験則の予測ほどの海面上昇は氷河や熱膨張からは起きないのである。この食い違いを起こしている原因の理解なしで半経験則を強力に推すのは難しい。
社会にとっては、適応策の必要を無視すると高くつくが「最大xx」に合わせて適応策を考えるのも高くつく。気候学コミュニティは、海面上昇は続く、だが2100年に2mを超える可能性はまずない、を効果的に伝えていく必要がある。観測は続けなければならないし、予測も改良しなければならない。確かな事は言えないのだから、政策担当者に不確実性をよりよく伝えなければならない。適応策の範囲は変更出来るようにしておかなければならないし、適応策も変えられるようにしておかなければならない。
もう一つがStefan Rahmstorfの「海面上昇の新しい景色」という記事。
IPCC AR4は海面上昇を2090年代までに18〜59cm + グリーンランド・南極両氷床からのまだ分かっていない寄与、とした。IPCCモデルの限界のため、研究者たちは半経験的なアプローチを試している。
20世紀には0.8℃の気温上昇に伴い海面上昇速度は3倍になった。人工衛星による観測が始まって以来、海面は3.4mm/yearで上昇しており、これはIPCC予測(1.9mm/year)を80%上回る。この違いの大半は大陸氷床の温暖化ガスへの反応に帰することが出来る。IPCCはグリーンランドと南極の氷床の将来の海面上昇への寄与はほぼゼロと見なした(降雪の増加により南極の氷は増えるとした)が、この20年間、両氷床は質量を失っており、その速度は次第に加速している。
近年の半経験則に基づく多数の研究 (本文の図にはIPCCに加えて5個の予測が記載されています) がIPCCよりもずっと大きな上昇幅を予測している。もし温暖化ガスの排出が増え続けるなら1mを超えるとする。そこで問題は、これら新しい見積もりはどこまで信用出来るのか、である。
マスコミは往々にして最大値にフォーカスする。だが最大値は、その定義からして滅多に起きない。また海面が著しく上昇するのは気温が急激に上昇する時だが、そうした場合を気候モデルで取り扱うのは難しい。そして最大値は不確実性の扱いで変わる。そこで以下は中心値で議論する。やや悲観的なA1Bシナリオ(約3℃の上昇)の場合、IPCC AR4は2090年代までに35cmと予測する。このモデルは過去15年間に観測された海面上昇速度は気温が上昇しても一定としている(年3.4mm * 100年間 ≒35cm)。Martin Vermeerと自分による半経験則モデルは2100年までに124cm, 2095年までに114cmと予測する。

気温と海面上昇の関係は将来も変わらないという保証はない。そこで、半経験則モデルはどこまでブレのない予測ができるのかを批判的に評価してみよう。
海面は2つの理由で上昇する。熱膨張と、陸上の氷の溶解である。そして熱膨張については半経験則モデルは大気海洋結合モデルとよく一致する。
陸上の氷の反応が適切に記述されているかの判断はより難しい。反応は温度に対して線形、はIPCCのモデルと変わらない。メディアでは先日、次のような批判が(以下割愛)。より重要な問題は、半経験則モデルは山岳氷河と氷床を区別せず連続体として扱っていることだろう。だが氷が溶ける速度は山岳氷河であれ、氷床であれ、その場所のローカルな気象に従う。そして山岳氷河と氷床が存在する気象条件は重なり合っている。例えば様々な地域にある氷河が平均で-12℃の環境にあり、氷河と氷床がほぼ半々であるとしよう。より暖かい地域には氷河が多く、より寒い地域には氷床が多いとする。このとき、年平均気温が-12℃であっても、一年のうち何日かは暖かくなるので氷は溶ける。そして気候が温暖化するに連れて氷河の一部は消滅する。でもそれはより寒い地域にあった氷床が溶け始めることで補われるので、氷河が消滅するからといってすぐに経験則が成り立たなくなる訳ではない(うーんよく分からん。氷がなくなれば表面積が変わるよね。そしたら溶ける速度は変わりそうな気がするのだが?)。
だが上記の議論では一部の氷河学者たちが予想している、氷が急激に、非線形に流れる変化は考慮していない。だから過小評価だ、として批判されている。

IPCCのA1Bシナリオの中心予測では、2090年代までに35cm上昇し、うち23cmが熱膨張とされる。これが正しいとすると、2095年までに114cmという我々の予測から23cmを除き、91cm (全上昇のうち約80%) が陸上の氷由来でなければならない。これは無理のないシナリオである。過去5年間の海面上昇のうち、約8割は陸上の氷由来だからである。
もし氷河の2/3が溶けると海面は40cm上昇する。ある研究では氷河の溶解による上昇を最低37cmと見積もっているが、この場合、海面上昇に占める氷河と氷床の寄与の比率は現在と変わらない。そして氷床は50cmに寄与すればよいこととなる。これは氷床の1%であり、これらの議論はIPCCの予測に照らして変なところはない。
最終氷期が終わったとき、て地球の平均気温は4〜7℃上昇し、陸上の氷の2/3近くが失われ、海面は120m上昇した。その時の海面の上昇速度は、1世紀あたり1mをたびたび超えた。現在の氷床が同様に振る舞わないとする理由はなさそうに思われる。
Rahmstorfの議論は論理が甘いのが気になります。例えばIPCCはA1Bシナリオにおいて海面上昇速度は気温が上昇しても一定としている、ってそれは違うでしょう。AR4ではB1シナリオとかでもっと低い値を予測しています。すなわち、氷床の崩壊を除くならば今よりも上昇速度は落ちるとB1シナリオでは言っているわけで、気温に応じて速度が変わることは認めているように見えます。他にも気になるところが省略した部分を含めちらほらと。
それはともかく、
この辺りの議論はRealClimateの昨年8月の記事で詳細に、数式を使いながら書かれており素直に理解出来ます。海面の高さをS, 平均気温をTとして
dS/dt = aΔT(t) + b
とし、aとbを色々なやり方で求める。aは気温上昇の比例係数、bは時間の比例係数となりますね。で、RealClimateの記事を見るとaやbの値はかなりばらついており、議論が収束するしばらく研究が必要という気がします(気候感度は1世紀以上議論されているのになかなか収束しませんが)。みんな苦労してるなあ。

Jason A. Lowe & Jonathan M. Gregory, "A sea of uncertainty," Nature Reports Climate Change, 6 April 2010 | doi:10.1038/climate.2010.30, from http://www.nature.com/climate/2010/1004/full/climate.2010.30.html

Stefan Rahmstorf, "A new view on sea level rise," Nature Reports Climate Change, 6 April 2010 | doi:10.1038/climate.2010.29 from http://www.nature.com/climate/2010/1004/full/climate.2010.29.html

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